遺言書の検認が必要なケースとは?手順と必要書類、その後の流れを解説!
遺言書の検認とは、遺言者の死後、遺言書を預かっている人や発見した人が、家庭裁判所に提出し、相続人立ち会いのもとで遺言内容を確認する手続きです。
遺言書の検認は、人生で一度経験するかどうかの手続きのため、
「遺言書の検認はどんなときに必要なの?」
「相続人は必ず検認に立ち会わなければいけないの?」
と疑問もお持ちの方もおられるかと思います。
本記事では、遺言書の検認が必要となるケースや、手続きの流れについて詳しく解説していきます。
1. 遺言書の検認とは?
冒頭でご説明したように、遺言書の検認とは、遺言書を未開封のままで家庭裁判所に提出し、相続人立ち会いのもとで開封する手続きのことです。
検認について、さらに詳しく見ていきましょう。
1-1. 遺言書の検認をする目的
遺言書の検認の目的は、一言で言えば相続トラブルを防ぐためにあります。
具体的には、以下の3つの目的が挙げられます。
- 相続人に対し遺言の存在や内容を知らせるため
- 遺言書の形状・状態・本文・日付・署名・印鑑などを確認するため
- 遺言書の偽造・変造を防止するため
遺言書の保管者や発見者は、自分の都合の良いように、遺言書を書き換えたり、破棄してしまう可能性があります。
検認は、遺言書を発見した時点の状態を保つことができるため、遺言書の種類や保管場所によっては必ず行わなければいけません。
1-2. 検認による遺言書の効力
遺言書の検認によって「遺言書の存在と今の状態」を確認することができますが、遺言書が有効か無効かを判別することはできません。
遺言書の検認をした場合であっても、以下に該当する場合は、遺言書が無効になる可能性があります。
- 遺言書に日付や署名、印鑑などがない
- 遺言書が本人の筆跡ではない
- 遺言書の作成日には既に認知症であった
遺言書は作成・保管時点で有効であり、さらに検認手続きを経ていなければいけません。
遺言書の検認と、有効か無効をまとめると以下のとおりです。
- 無効な遺言書 → 検認あり → 無効
- 無効な遺言書 → 検認なし → 無効
- 有効な遺言書 → 検認あり → 有効
- 無効な遺言書 → 検認なし → 無効
検認後、「この遺言書は無効である」と主張したい場合は、遺言無効確認訴訟を起こすことが可能です。
訴訟を起こす場合、被告の住所地または相続開始時における被相続人の住所地を管轄する地方裁判所または簡易裁判所が窓口になります。
自分で訴訟を起こすのが難しい場合は、弁護士に相談しましょう。
2. 遺言書の検認が必要なケース
遺言書は、全て検認しなければいけないわけではありません。
遺言書には、自筆証書遺、秘密証書遺言、公正証書遺言の3種類があり、検認が必要なケースは「自宅などで保管されていた自筆証書遺言」または「秘密証書遺言」です。
遺言書の種類ごとに、検認が必要か不要かをまとめると次のとおりです。
- 自筆証書遺言(自宅などに保管)→ 検認必要
- 自筆証書遺言(法務局に保管)→ 検認不要
- 秘密証書遺言 → 検認必要
- 公正証書遺言 → 検認不要
遺言書は、種類と保管場所によって検認が必要か不要かが決まります。
自筆証書遺言とは、本人が遺言書の全文(財産目録はパソコン可)・作成年月日・氏名を自筆し、印鑑を押印したものです。
自筆証書遺言は、自宅や会社など法務局以外の場所で保管されていた場合は、検認が必要になります。
秘密証書遺言とは、遺言書を公証役場に持参し、遺言書の存在だけを証明してもらい、内容を秘密にしたもので、手続き後は自分で保管するため、検認が必要になります。
公正証書遺言とは、遺言書を公証役場に持参し、公証人に遺言内容を口頭で告げ、公証人が遺言内容を文章にまとめたもので、手続き後は公証役場で保管されるため、検認が不要になります。
3. 遺言書の検認をしないままで相続するリスク
ここからは、遺言書の検認を行わなかった場合、どのようなリスクがあるのかを解説していきます。
遺言書を検認を行わないと、以下の2つのリスクがあります。
- 罰則を科される
- 相続手続きが進められない
順番に詳しく見ていきましょう。
3-1. 罰則を科される
遺言書の検認をしないと、罰則を科されます。
その根拠は、民法第1004条1項・第1005条で次のように定められているからです。
(遺言書の検認)第千四条
遺言書の保管者は、相続の開始を知った後、遅滞なく、これを家庭裁判所に提出して、その検認を請求しなければならない。遺言書の保管者がない場合において、相続人が遺言書を発見した後も、同様とする。
(過料)第千五条
前条の規定により遺言書を提出することを怠り、その検認を経ないで遺言を執行し、又は家庭裁判所外においてその開封をした者は、五万円以下の過料に処する。
民法上、遺言書の保管者または発見者は、家庭裁判所で検認を受けなければならないとされ、違反した場合、5万円以下の過料が科せられます。
遺言書を預かっている場合や、見つけた場合は、勝手に開封せずに検認手続きを行いましょう。
3-2. 相続手続きが進められない
検認後に家庭裁判所から交付される、検認済証明書を提示しなければ、遺言書の内容に沿って、相続手続きを進めることができません。
検認済証明書の提出が必要となる、主な相続手続きは以下のとおりです。
- 相続登記(不動産の名義変更)
- 預貯金の払戻し(口座の解約・名義変更)
- 株式の移転(口座の解約・名義変更)
- 登録車の移転登録(自動車の名義変更)
また、検認を行い遺言書の内容がわからなければ、相続人や受遺者が誰で、相続財産や相続分がどれだけあるかを確定することができません。
そのため、以下の相続手続きを行うことができません。
- 相続放棄・限定承認の申述
- 相続税の申告・納付
- 遺留分侵害額請求
遺言書の検認自体には期限がありませんが、これらの手続きが必要な場合には、期限や時効が設けられています。
期限を過ぎてしまうと、多額の負債を相続することになったり、追徴税・延滞税を支払うことになってしまうため、なるべく早めに検認を済ませましょう。
4. 遺言書の検認の手順(前半)
遺言書の保管者や発見者は、遺言者の死亡を知った後、そのままの状態で家庭裁判所に提出し、検認を受けなければいけません。
遺言書の検認の手続きは、以下の5つのステップに分かれています。
STEP1: 必要書類の準備
STEP2: 申立人を決めて家庭裁判所に申立て
STEP3: 検認期日の日程調整
STEP4: 検認期日に家庭裁判所で検認を行う
STEP5: 検認済証明書の受領
家庭裁判所に申立てを行い、検認済証明書を受け取るまで、1ヶ月〜2ヶ月程度かかります。
順番に詳しく見ていきましょう。
STEP1: 必要書類の準備
検認の手続きには、共通して必要となる書類と、ケースによって必要となる書類があります。
共通して必要な書類は、以下のとおりです。
- 家事審判申立書
- 収入印紙800円分(申立書に貼り付け)
- 被相続人の出生から死亡まで全ての戸籍謄本(除籍謄本・改正原戸籍謄本)
- 相続人全員の現在の戸籍謄本
家事審判申立書は家庭裁判所で取得するか、以下のリンクからダウンロードすることができます。
戸籍謄本等は以下の記事を参考に収集しましょう。
子ども・孫などの直系卑属(第1順位)が相続人となる場合は、追加で以下の書類が必要になります。
- 子どもの出生から死亡までの全ての戸籍謄本等(すでに死亡している子どもがいる場合)
- 代襲者の出生から死亡までの全ての戸籍謄本(すでに死亡している代襲者がいる場合)
父母・祖父母などの直系尊属(第2順位)が相続人となる場合は、追加で以下の書類が必要になります。
- 子どもの出生から死亡までの全ての戸籍謄本等(すでに死亡している子どもがいる場合
- 代襲者の出生から死亡までの全ての戸籍謄本(すでに死亡している代襲者がいる場合)
- 直系尊属の死亡を確認できる戸籍謄本等(すでに死亡している直系尊属がいる場合)
相続人が不存在の場合、配偶者のみが相続人となる場合、兄弟姉妹・甥(第3順位)が相続人となる場合は、追加で以下の書類が必要になります。
- 直系尊属の死亡を確認できる戸籍謄本等
- 父母の出生から死亡までの全ての戸籍謄本等
- 子どもの出生から死亡までの全ての戸籍謄本等(すでに死亡している子どもがいる場合)
- 代襲者の出生から死亡までの全ての戸籍謄本(すでに死亡している代襲者がいる場合)
- 兄弟姉妹の出生から死亡までの全ての戸籍謄本(すでに死亡している兄弟姉妹がいる場合)
- 甥姪の死亡を確認できる戸籍謄本等(すでに死亡している甥姪がいる場合)
家族構成や順位によってはかなり複雑になるため、不安のある方は専門家に相談しましょう。
STEP2: 申立人を決めて家庭裁判所に申立て
必要書類の準備ができれば、申立人を決めて申立を行います。
申立人は検認期日(検認を行う日)に立ち会いが必要になるため、当日立ち会いが可能な人でなければいけません。
一方で、他の相続人の立ち会いは任意となっているため、相続人全員がそろわなくても検認は可能です。
申立て先は、遺言者の最後の住所地を管轄する家庭裁判所になります。
郵送で申立を行う場合は、必要書類と相続人分の返信用封筒、連絡用郵便切手を同封し、提出しましょう。
STEP3: 検認期日の日程調整
申立てが完了すれば、数週間〜1ヶ月後ぐらいに家庭裁判所から連絡が入り、検認期日の日程を調整します。
家庭裁判所の混雑状況にもよりますが、検認期日は申立ての日から1ヶ月〜2ヶ月後になることが多いようです。
日程が確定すると、家庭裁判所から申立人と相続人全員に、当日の持ち物と検認期日が通知されます。
STEP4: 検認期日に家庭裁判所で検認を行う
検認期日になれば家庭裁判所に行き、申立人・出席している相続人・裁判所の職員がそろった状態で、遺言書を開封し、内容を確認します。
検認期日の持ち物は、以下のとおりです。
- 遺言書の原本(未開封のまま)
- 検認期日の通知書(裁判所から送付される)
- 本人確認書類(マイナンバーカード、運転免許証など)
- 収入印紙150円分(検認済証明書の発行手数料)
- 認印
検認自体は10分程度で終わります。
忘れ物がないように準備を進めましょう。
STEP5: 検認済証明書の受領
検認が終了すれば、検認済証明書の発行を申請します。
不動産登記や預貯金の払戻しなど、遺言を執行するためには、遺言書に検認済証明書が添付されている必要があります。
受領後は、大切に保管しておきましょう。
5. 遺言書を検認した後の流れ(後半)
ここからは検認済証明書を受け取った後の手続きを解説していきます。
遺言書の検認後の流れは、次の5つのステップに分かれています。
STEP6: 遺言書の内容を確認する
STEP7: 相続財産と相続人を確定する
STEP8: 遺言執行者を確定する
STEP9: 遺言執行者が通知を行う
STEP10: 遺言を執行する
順番に詳しく見ていきましょう。
STEP6: 遺言書の内容を確認する
まず遺言書の内容を確認し、遺産分割協議が必要かどうかを判断します。
遺産分割協議が必要な場合は以下のとおりです。
- 遺言書に記載されていない相続財産がある場合
- 遺言書の内容に従わずに相続する場合
- 遺言書無効確認訴訟により無効になった場合
遺言書に記載されていない相続財産がある場合は、相続人全員で話し合い、その相続財産を誰が相続するかを決める必要があります。
また、遺言書の記載内容にかかわらず、相続人と受遺者(遺言で財産を譲り受ける者)の全員が同意すれば、遺言書の内容に従わずに相続することが可能です。
遺言書に全ての相続財産の記載があり、かつ遺言書の内容に従って相続する場合はSTEP8に進みましょう。
STEP7: 遺産分割協議書の作成
遺産分割協議が必要な場合は、相続財産を誰が相続するかを相続人全員で話し合いを行います。
話し合いの結果を文書にまとめ、相続人全員で署名・実印を押印すれば、遺産分割協議書の完成です。
遺産分割協議書が完成した後、相続手続きを以下のように進めます。
- 遺言書で指定されている相続財産 → STEP8へ
- 遺言書で指定されていない相続財産 → 遺産分割協議書で手続き
- 遺言書の内容に従わない場合 → 遺産分割協議書で手続き
- 遺言書無効確認訴訟により無効になった場合 → 遺産分割協議書で手続き
手続きの際に、遺言書または遺産分割協議書を提出する必要があります。
STEP8: 遺言執行者を確定する
遺言執行者とは「遺言内容を実現するため、遺言者に代わって手続きを進めていく人」のことで、選任は必須ではありませんが、選任しておくことで相続手続きをスムーズに進めることができます。
遺言書で指定されている場合と、家庭裁判所で選任する場合に分けて見ていきましょう。
遺言書で指定されている場合
遺言書で指定されている場合であっても、遺言執行者に就職を承諾する前であれば、辞退することが可能です。
また、就職後に行政書士や司法書士などの第三者に委任することも可能です。
民法第1016条1項で、次のように規定されています。
(遺言執行者の復任権)
第千十六条
遺言執行者は、自己の責任で第三者にその任務を行わせることができる。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
一方で、遺言執行者の就職を承諾した後は、自由に辞職することはできません。
民法第1019条2項で、次のように規定されています。
(遺言執行者の解任及び辞任)
第千十九条
2 遺言執行者は、正当な事由があるときは、家庭裁判所の許可を得て、その任務を辞することができる。
このように、遺言執行者は、辞退や委任は自由に行うことができますが、辞職する場合は正当な理由が必要になります。
なお、正当な理由に該当するかどうかは、家庭裁判所が判断します。
遺言執行者を家庭裁判所で選任する場合
次のいずれかに当てはまる場合は、家庭裁判所に遺言執行者を選任してもらうことが可能です。
- 遺言執行者が指定されていない
- 遺言執行者の指定を受けた者が就職しない
- 遺言執行者がすでに亡くなっている
申立てができる人は、相続人や受遺者、債権者などの利害関係人で、必要書類は以下のとおりです。
- 利害関係人であることを証明する書類
- 家事審判申立書
- 収入印紙800円分(申立書に貼り付け)
- 遺言者の死亡が確認できる戸籍謄本等
- 遺言執行者候補者の住民票または戸籍附票
- 遺言書の写しまたは検認調書謄本の写し
家事審判申立書は、家庭裁判所の窓口で取得するか、下記リンクからダウンロードできます。
STEP9: 遺言執行者による通知・交付
遺言執行者は相続手続きを始める前に、以下の2つを行うことが義務付けられています。
- 遺言執行者就職の通知
- 財産目録の作成・交付
遺言執行者は、相続人と受遺者の全員に自らが遺言執行者に就職したことを通知しなければいけません。
また、相続人と相続財産を調査をした後、相続人と受遺者の全員に相続財産を一覧化した、財産目録を交付しなければいけません。
就職時の通知や、財産目録の交付は、遺言執行者と相続人・受遺者間のトラブルを防ぐ目的があります。
遺言執行者に就職する場合は、相続手続きを開始する前に忘れずに行いましょう。
STEP10: 遺言の執行
遺言執行者は、遺言書の内容に従って、遺言を執行します。
自筆証書遺言の場合は、STEP5で取得した、検認済証明書の提示が必要になります。
主な手続きと手続き先は以下のとおりです。
- 相続登記(不動産の名義変更)→ 法務局
- 預貯金の払戻し(口座の解約・名義変更)→ 金融機関
- 株式の移転(口座の解約・名義変更)→ 証券会社
- 登録車の移転登録(自動車の名義変更)→ 運輸支局
名義変更の手順は、以下の記事からご確認いただけます。
6. まとめ
遺言書の検認は、自宅などで保管されていた自筆証書遺言または秘密証書遺言の場合に必要になります。
検認済証明書を受け取るまでに、1ヶ月〜2ヶ月程度かかるため、必要な場合はなるべく早めに手続きを行いましょう。
遺言書に従って相続手続きを進める上で、遺言執行者が指定されていれば、相続手続きをスムーズに進めることが可能です。
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